5月29日(日)
14:00から仕事があり、帰りは早くても16:00だ。今日はグレートホステスに行くのはやめておくか。
仕事が終わり家に着く。時刻は16:10だった。別に遅い時間じゃない。なんかグレホに行きたい気分。行ってしまえ!
着替えている時間もないので、スーツ姿のまま自転車でグレートホステスへ向かった。
外から店内を見てみる。今日も働いている沙夜ちゃんの姿が見えた。
スーツ姿、見られるのちょっとはずかしいなあ。スーツ姿で来るのは二度目だが、最初のときは沙夜ちゃんワシの存在に気付かなかったから、今日がスーツ姿を見られるのは初めてとなる。
店に向かって歩く。レジのところに沙夜ちゃんがいるのが見えた。今日は案内してもらえる。
沙夜ちゃん「いらっしゃいませー」
いつもとは違うはずかしさで顔をあわせられない。入ってすぐ禁煙席のほうを向いた。
沙夜ちゃんも出迎えてから「どうぞ」と案内を始めるまでに少し間があった。やはりいつもと少しは違う雰囲気を感じたのだろう。
案内をする沙夜ちゃん、ワシと一緒に禁煙席ゾーンに入ったが、そこからは昨日と同じくワシが席を選んでいいらしい。昨日の教訓を生かし、位置のいい席に着いた。
もうこのときすでに「今日はドリンクバーだけ」と決めていた。席についてメニューをテーブルに置いてくれた沙夜ちゃんにすぐさま「ドリンクバーをお願いします」と言った。沙夜ちゃんは置いたメニューをすぐに持ち上げ、キッチンへ戻っていった。そしてワシもすぐさまドリンクバーでコーラを注いで持ってきた。
話しかけようとふんばっていたころから見ると考えられない行動だ。注文を取ってもらい、用意をしてもらい、持って来てもらい、その中で話しかけようとしていたわけだから。
しかしもうその必要はない。パッと頼んで自分で持ってくる。沙夜ちゃんに用意してもらわなくてもいいのだ。
そして沙夜ちゃん、伝票を持って来てテーブルの上にある筒に入れた。
そういえばドリンクバーって単品で頼むといくらだっけ。260円だったかな?食事とセットで頼むともっと安くなるんだよな。伝票を見て確認。370円。ポテトサラダより高い。おかわり自由ってことを考えるとあたりまえか。
ワシは仕事でのどが渇いていたので、ドリンクバーで存分に潤した。炭酸飲料がシュワッとのどにきく。
ドリンクバーへおかわりに行く。メロンソーダを注いでいると、沙夜ちゃんがワシの席の前の席に座っている客の食事の準備。当然そこはワシの通り道。コップを片手に沙夜ちゃんの真後ろを通った。
超接近。いやー、かわいいなぁ、間近で見る後ろ姿も。
席のあるところまで戻り、座るためにターンして沙夜ちゃんがいる方向を向く。
すると、沙夜ちゃんがワシを見てる。初めて見るスーツ姿が新鮮かい?
そして沙夜ちゃんはワシの真ん前を通り、ほかの客の皿をさげてキッチンへ戻った。
…なるほどね。ワシはこれを「気がある」と勘違いしていたわけだね。胸が痛む。
でもよかったよかった。沙夜ちゃんワシを全く避けなくなったよ。ちょっと前は大回りしてでもワシの近くを通らないようにしてたわけだから。
そんなことを考えながら、持っていた手帳に目を通しながらメロンソーダを飲んだ。
沙夜ちゃんは喫煙席の作業場へ。ワシは3杯目のおかわりのためにドリンクバーへ。作業場の正面に位置するところを通る。沙夜ちゃんをチラッと見てみる。
沙夜ちゃんワシを見てる。そして作業が落ち着き、レジの横で待機。それがワシの超正面。照れますな。
今年の絶頂期だったゴールデンウィークのあの日と同じ光景が戻った。手紙を渡そうとしたことで崩れてしまったグレートホステスでの日常が、おとなしく通い続けたことによって取り戻すことができた。
ただ、もうアタックしてもダメだという事実がハッキリしているという点は違うけどね。
よく恋愛のサクセスストーリーで、ダメでもあきらめず何度もアタックして…というのがあるが、そんな奇麗事にはだまされない。そんなことをしたら嫌われるだろう。しつこい野郎だと。
ダメだとわかったところでいっさい手を引き、おとなしくしていたおかげで嫌われるのだけは回避できた。
嫌われなかった、これはせめてもの救いだ…。
そして17:30になり、席を立つ。だれもいないレジへ向かう。
伝票とポイントカードをレジ台に置き、店員さんが出てくるのをうつむきながら待つ。
「ありがとうございました、またおこしくださいませ」
そう言いながら沙夜ちゃんが出てきたので顔を上げる。しかし沙夜ちゃんはお品運びの最中で、立ち止まってレジをやることは出来ない。そのまま通り過ぎていき、そのあと亀島さんが出てきてレジをやってくれた。
「ありがとうございました、またおこしくださいませ」
また沙夜ちゃんの声がした。キッチンへ戻りながらワシに言ったのだ。やっぱりワシには2回言う沙夜ちゃん。
キッチンの奥で一生懸命働く沙夜ちゃんを目に焼き付けて店を出た。
駐輪場へ向かって歩きながら店内を見てみる。キッチンから猫背で出てきてドリンクバーで作業をする沙夜ちゃんが見えた。
いやいや、また日常が戻ったと喜んでは見たものの、やはり敗北のショックは消えるはずはない。
一回アタックしてダメだった、そしてもう二度と同じことはしたくない。だから黙って沙夜ちゃんを見つめているだけだ。
…あとは沙夜ちゃんがいつバイトをやめてここからいなくなってしまうかだ。
その日を黙って待ち続けることしかできないだなんて、つらすぎるよ。そんなことならスパッと想いを断ち切って、ワシのほうから通うのをやめるべきだ。
そうするにはもう少し時間がかかりそう。1年3ヵ月の恋の代償は想像をはるかに超える大きなものだった。